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東京高等裁判所 平成5年(行コ)1500号 判決

甲事件控訴人・乙事件原告 東山ヶ野鉱山株式会社

甲事件被控訴人 通商産業大臣

乙事件被告 九州通商産業局長

代理人 門西栄一 及川まさえ ほか八名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  当審において合併して提起された訴えに係る請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人兼原告の負担とする。

事実

第一当審において併合して提起された処分取消しの訴え(平成五年(行コ)第一五〇号事件)

一  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(一) 福岡通商産業局長が原告に対し昭和六二年七月二〇日にした鹿児島県採掘権登録第六六四号、第七一一号、第七五九号及び第七六七号の各鉱業権(以下、一括して「本件鉱業権」という。)の取消処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一) 原告は、本件鉱業権の鉱業権者であったが、福岡通商産業局長は、昭和六二年七月二〇日、原告に対し、本件処分をした。

(二) 本件処分は、誤認に基づくものであり、法律上の正当な根拠がなく、また、著しく社会的相当性に欠けるものであるから、違法である。

(三) 福岡通商産業局長は、平成元年七月一日をもって、九州通商産業局長と改称された。

(四) よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。

なお、この訴えは、行政事件訴訟法一九条に基づいて、当審において、本件処分についての審査請求を棄却した後記裁決取消しの訴えに合併して提起したものである。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)及び(三)は認める。

(二) 同(二)は争う。

3  抗弁

以下のとおり、本件処分は適法である。

(一) 原告は、鹿児島県採掘権登録第七一一号の鉱業権(以下「七一一号採掘権」という。)の譲渡を受け、昭和五三年一一月二四日その登録をし、昭和五四年四月二四日鉱業法六八条による鉱業事務所の設置の届出をした。

また、原告は、鹿児島県鉱業権登録第六六四号、第七五九号及び第七六七号の各鉱業権(以下、これら三つの鉱業権を一括して「六六四号採掘権等」という。)の譲渡を受け、昭和五四年六月一二日その登録をした。

(二) 原告は、昭和六〇年四月一日から、六六四号採掘権等については事業未着手であり、七一一号採掘権については休業状態にあったところ、鉱業法六二条二項及び三項に基づき、昭和六一年八月一六日付けで事業着手の延期及び事業の休止の各申請を行い、被告は、同年九月二四日付けをもって、同年八月一六日から昭和六二年一月三一日までの期間(以下「認可期間」という。)、六六四号採掘権等につき事業着手の延期、七一一号採掘権につき事業休止の各認可をした。

(三) 被告は、原告に対し、認可期間満了の二か月前までに、認可期間が満了すること及び認可期間内に期間の延長申請の手続をとらないと鉱業法五五条一号により鉱業権が取り消される旨通知した。

ところが、昭和六二年一月三一日を過ぎても、原告から、六六四号採掘権等について、事業に着手したときに必要な手続である鉱業法六八条に規定する鉱業事務所の設置の届出がされず、認可期間内に事業着手延期の認可申請もされなかった。また、七一一号採掘権についても、同様に、原告から、同法六二条四項に規定する休止した事業の開始届出がされず、認可期間内に事業休止延長の認可申請もされなかった。

したがって、本件鉱業権は、いずれも同法五五条一号に該当する状況にあった。

(四) そこで、被告は、鉱業法五六条において準用される同法四〇条の規定に基づき、昭和六二年六月二五日、本件鉱業権の取消しに関する聴聞会を開催した。

原告は、右聴聞会において、事業着手延期ないしは事業休止延期の各認可申請がされていないとの指摘に対し、ボーリングに着手するなどして事業の着手あるいは開始をしていないことを認めるとともに、事業に着手あるいは開始したとする証拠の提示もしなかった。

(五) 被告は、六六四号採掘権等について、その事業着手延期の認可期間満了後も事業に未着手であることは原告の陳述からも明らかであるばかりか、着手したことについての証拠も提出されなかったことから、鉱業法六二条二項の規定に違反していると判断した。

また、七一一号採掘権についても、事業を開始したという原告の陳述もないし、開始したことの証拠の提出もされなかったことから、同法六二条三項の規定に違反していると判断した。

(六) 以上の経緯に基づき、被告は、原告が鉱業法六二条二項(六六四号採掘権等)又は三項(七一一号採掘権)に規定する事業着手の義務に違反しているとして、昭和六二年七月二〇日、同法五五条一号の規定に基づき本件処分を行った。

4  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、原告が、昭和六二年一月三一日を過ぎても、六六四号採掘権等についての鉱業事務所の設置の届出、事業着手延期の認可申請、七一一号採掘権についての休止した事業の開始届出、事業休止延長の認可申請をしなかったこと、原告がボーリングに着手していなかったことは認める。聴聞会においては、何らの証拠の提示も求められなかったものである。原告が事業に着手していなかったこと又は事業を開始していなかったことは争う。

原告は、物理探査(地上探査)を行っており、ボーリング等の土地の形状を変更するような試掘行為が行われなかったからといって、事業に着手していないとするのは、事業に関する社会的妥当性を欠く考え方であって、不当である。すなわち、鉱物資源開発の事業においては、採掘行為に至るまでに、物理探査等の地上探査、ボーリング、坑道掘削、その他の整備、準備等の各種の方策が、継続性を持った事業展開の中で、総合的一貫性のもとに、合理性を求めて実施されるのであって、事業者は、その時何が最も最善、有効な方策であるかを選択し、決定する。その決定は経営責任者の権限であって、行政庁もこれを侵すことはできない。原告が本件鉱業権について行った物理探査は、開発事業の一貫性の中での一過程であり、原告が現在最善と考える方策であって、単なる事業再開の準備行為ではない。

第二裁決取消しの訴えについての控訴事件(平成五年(行コ)第一三号事件)

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一) 原判決を取り消す。

(二) 福岡通商産業局長が控訴人に対し昭和六二年七月二〇日にした本件処分に関する審査請求について、被控訴人が平成三年九月三〇日にした右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を取り消す。

2  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

二  当事者の主張

1  請求原因

(一) 控訴人は、昭和六二年九月二四日、本件処分について被控訴人に審査請求をしたが、被控訴人は、平成三年九月三〇日、右審査請求を棄却する旨の本件裁決をした。

(二) 本件裁決は、違法な本件処分をそのまま是認したものであるから、違法である。

(三) よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件裁決の取消しを求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)は認める。

(二) 同(二)は争う。

控訴人は、本件処分の違法を主張するのみであって、裁決固有の瑕疵を主張しないから、本件訴えは理由がない。

第三証拠〈略〉

理由

第一当審において併合して提起された処分取消しの訴え(平成五年(行コ)第一五〇号事件)について

一  請求原因(一)及び(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁事実のうち、原告が、昭和六二年一月三一日を過ぎても、被告が主張するような届出及び認可申請をしなかったこと、原告がボーリングに着手していなかったことは、当事者間に争いがない。

その余の抗弁事実は、原告が六六四号採掘権等について事業に未着手であったこと、七一一号採掘権について事業を開始していなかったことを除いては、原告において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

三  そこで、原告が六六四号採掘権等について事業に未着手であったかどうか、七一一号採掘権について事業を開始していたかどうかを判断する。

1  鉱業法六二条の規定する事業着手の義務は、鉱業権者が鉱区において特定の鉱物を掘採しこれを取得しうる独占的、排他的な権利を認められる一方、その権利はこれを鉱物資源を合理的に開発し、公共の福祉増進に寄与すべく行使する使命を負託されているのであるから(鉱業法一条参照)、いたずらにその権利を行使せずに放置することは許されないとの考えのもとに、鉱物資源の合理的開発の促進の見地から定められたものであるものと解される。また、同法五五条一号が、右の義務に違反したときには、鉱業権を取り消すことができる旨を規定しているのは、右六二条の規定の遵守を確保するため、このような場合には鉱業権を取り消し、真に鉱物資源開発の熱意を有する者にこれを開放しようとするものであると解される。

以上のような立法趣旨に鑑みると、鉱業法六二条にいう「事業」とは、採掘権については、原則として鉱業権行使の本来の態様である掘削事業をいうものと解するのが相当である。そして、掘削事業とは、少なくともボーリング等の土地の形状を変更するような試掘行為をすることを要するものというべきである。

2  本件鉱業権については、ボーリングに着手していなかったことは当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、原告の代表者は、昭和六二年一一月二五日に開催された本件処分についての審査請求に係る聴聞会において、昭和六二年二月以降と三月末の二回、計測ドリリングによる電気探査などを実施した、これはボーリングではなく、外部からの調査であって、鉱区内にどのような鉱物が存在するかを調査するものである、外部の専門家に委託して調査をするということは事業を行っていると解釈している、と述べていることが認められる。

また、〈証拠略〉によれば、原告は、平成三年七月一五日、裁決庁である被控訴人に対し、事業の着手を裏付ける証拠の一部であるとして、株式会社三次元探鉱研究所作成の昭和六二年三月一五日付け「東山ヶ野鉱山の地質鉱床探査測定結果報告書」と題する書面を提出したこと、右報告書によれば、探査測定期間は昭和六二年二月一日から二月二〇日までであり、探査測定に使用した機器は、光コンピュータであって、特殊なレーザー光線を地表から地下に照射し、目標物を探知してUターンする光線の強度をコンピュータで読み取る仕組みになっており、これによって地熱、水脈、火山岩、花崗岩、金鉱脈、その他あらゆる鉱石(脈)の走向、深度、幅、品位が即座に判定できるとされていることが認められる。

しかし、仮に原告が右のような調査を実施していたとしても、外部からのレーザー光線による探査であるから、掘削事業そのものではなく、その準備のための行為にすぎないことは明らかである。また、右の調査の実施が例外的に事業の着手に当たると解することができる特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠もない。

3  その他、原告が、本件鉱業権について、事業に着手していたことを裏付ける事実があったことについては、何ら主張・立証がない。

4  以上のとおり、原告が、昭和六二年二月一日以降、六六四号採掘権等について事業に着手し、また、七一一号採掘権について事業を開始したとは認められない。

四  そうすると、原告は、六六四号採掘権等については、鉱業権の移転の登録があった日から六箇月以内に事業に着手することができないときは、通商産業局長の認可を受けなければならない旨定める鉱業法六二条二項の規定に違反して事業に着手しなかったものであり、また、七一一号採掘権については、引き続き一年以上その事業を休止しようとするときは、通商産業局長の認可を受けなければならない旨定める同条三項の規定に違反して引き続き一年以上休業したものであるから、いずれも同法五五条一号に定める鉱業権の取消事由に該当していたものである。

したがって、被告がした本件処分は、基礎となる事実に誤認はなく、また、法律上の根拠に基づく適法なものというべきである。被告の判断が社会的相当性に欠けるとする根拠も見いだすことができない。

五  以上のとおり、原告の本件処分の取消しの請求は、理由がないから、これを棄却することとする。

第二裁決取消しの訴えについての控訴事件(平成五年(行コ)第一三号事件)について

一  請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  控訴人主張の本件裁決の違法事由は、違法な本件処分をそのまま是認したというのであるが、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができないのであるから(行政事件訴訟法一〇条二項)、控訴人の主張は失当である。

三  したがって、控訴人の本件裁決の取消しの請求は棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとする。

第三結論

よって、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋欣一 矢崎秀一 及川憲夫)

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